
日本テレビの報道番組「news every.」が9月29日に放送した、奈良公園のシカをめぐる特集VTRが物議を醸している。
番組では、自民党総裁選立候補の高市早苗氏の発言「奈良のシカを蹴り上げる外国人観光客がいる」を検証するコーナーで、ガイドを名乗る女性が「攻撃的な観光客は基本的に見かけない」と証言。しかし、この女性の「ガイド歴10年以上」というテロップが実際には2年程度だったことが判明し、虚偽表示の疑いが浮上。
10月2日に日テレがホームページで発表したコメントでは、中傷防止を呼びかける一方で、誤表記への謝罪は一切触れられなかった。これに対し、ネット上では「謝罪しろ」「偏向報道だ」との批判が噴出している。
騒動の発端は、自民党総裁選(10月4日投開票)で高市早苗前経済安全保障担当相が、所見発表演説で述べた一節だ。「そんな奈良のシカをですよ。足で蹴り上げるというとんでもない人がいます。外国から観光に来て、日本人が大切にしているもの、わざと痛めつけようとする人がいる」と、外国人観光客によるシカへの暴行を指摘した。これに対し、野党や一部メディアから「外国人排斥のヘイト発言」との批判が上がり、SNSではシカへの暴行動画が拡散される中、真偽をめぐる議論が過熱した。
こうした中、日テレ「news every.」は「いいね!の前に考えるそれって本当?」と題したファクトチェックコーナーで、現地取材を敢行。約5分間のVTRでは、SNSの暴行動画を複数確認したが「外国人観光客によるものと断定できるものはなかった」とし、公園内で10人以上に聞いたところ「見た人はいなかった」と報じた。さらに、飲食店オーナー(奈良公園での商売歴25年)とガイド女性の証言を強調。女性はオレンジ色の制服姿で「ガイド歴10年以上。攻撃的な観光客は基本的に見かけない。外国人の方がフレンドリー」と語り、番組はこれを「検証」の根拠として放送した。
放送直後、ネット上で疑問の声が上がり始めた。ガイド女性の肩書きに「奈良公園で活動するガイド歴10年以上」とテロップが出ていたが、奈良市議のへずまりゅう氏が現地取材でこの女性を特定。結果、彼女は「人力車ガイドとして2年程度の経験しかない」ことが明らかになった。
さらに、女性本人は「取材の趣旨を詳しく知らされていなかった」と証言し、番組の編集や事前打ち合わせに不信感を表明したという。
これをきっかけに、「やらせ疑惑」「クライシスアクター(危機を演出する役者)疑惑」が急速に広がった。X(旧Twitter)では、女性の顔が過去の別番組出演者と酷似しているとの指摘が相次ぎ、「同じ人じゃん」「日テレの仕込みだろ」との投稿がトレンド入り。
また、飲食店オーナーについても「牛まぶし三山」という店が奈良公園から離れた場所にあり、奈良公園での商売歴25年という表記が適切か疑問視された。
10月2日、日テレは公式ホームページでコメントを発表。「取材で確認が取れた情報をお伝えしたもの。取材にお答えいただいた方や無関係の方に対し、誹謗中傷や迷惑行為等を行うことは、厳に慎んでいただきたくお願い申し上げます」と述べ、視聴者に自制を求めた。
しかし、ガイド歴の誤表記や虚偽テロップへの言及は一切なく、謝罪の言葉もなかった。これがネット民の怒りをさらに煽り、「中傷防止の前に誤報を謝れ」「偏向報道で高市氏潰しを図ったのか」「検証じゃなくプロパガンダだ」との声が殺到している。
(文/石田良治)