
札幌市西区に本社を置く建設会社「株式会社花井組」をめぐる従業員への暴行事件が、大きな議論を呼んでいる。
2025年3月、同社の社長である七戸義昭氏が従業員に対して激しい暴行を加える映像が防犯カメラに記録され、SNSを通じて拡散。
これを受け、プロバスケットボールチーム「レバンガ北海道」がスポンサー契約を解除し、札幌市も企業認証の取り消し手続きを進めるなど、社会的制裁が相次いだ。
しかし、花井組が関係企業や会員向けに出したとされる声明が、さらなる批判を招いている。この声明では、暴行の被害者が社長の甥であったことを強調し、「親族間の行為」として問題を軽視するような姿勢が見られるとされている。
事件は、社内で飼育されている錦鯉の水槽管理をめぐるトラブルが発端とされる。被害者である従業員は、社長の妻である七戸祐己子氏の指示されたとおりの量でエサやりを行ったものの、このエサの量が錦鯉に悪影響を与えるものだったという。
社長の妻の指示ミスにもかかわらず、この従業員がミスを犯したとして、さらには不満げな態度を示したとして七戸社長は激昂。
約1時間にわたり殴る、蹴る、髪を引っ張るなどの暴行を同従業員は受けた。防犯カメラの映像には、同従業員が泣き叫びながら抵抗できない様子が克明に映し出されており、現場には常務取締役と社長の妻も居合わせたが、暴行を制止することはなかった。同従業員はその後、警察に被害届を提出し、会社を退職。さらに、社長の親族から「本当にさらいにいくぞ」といった脅迫的なメッセージを受け取ったと報じられている。
花井組は5月8日、関係企業に対して声明を発表。その内容は、暴行の事実を認めつつも、「被害者が社長の甥であり、親族間の行為であるため問題ない」とするニュアンスを含むものだったと、SNS上で指摘されている。
「花井組の価値観では冤罪で1時間くらい暴行して被害者が泣き叫んでる中ナンバー2に抑えつけさせ、髪の毛掴んで引きずり回して顔面を殴る蹴るして馬乗りになってボコボコにしても血縁関係のある甥なら許されるんか」といった批判が飛び交い、声明の倫理的問題が浮き彫りにされた。
さらに、声明では「事実と異なる点が多くあり大変遺憾に思っています。現在顧問弁護士に依頼し、示談に向けて進行中ですのでご安心下さい」とも述べられており、問題の矮小化を図る姿勢が透けて見える。この対応に対し、SNSでは「甥っ子に暴行する奴っているの?社長はただのヤクザやん」「暴行や傷害罪について、『親族間の行為はこれを罰しない』とかいう但書ありましたっけ?」といった声が上がり、法的な観点からも疑問が投げかけられている。
日本の刑法では、親族間の軽微な行為に対して処罰を免除する規定(例えば、窃盗や詐欺に関する刑法244条の親族相盗例)があるが、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)にはこのような例外は適用されない。したがって、被害者が社長の甥であっても、暴行の事実が明らかであれば刑事責任を問われる可能性は高い。加えて、業務上の上下関係を利用した暴力は、労働安全衛生法やパワーハラスメントに関する行政指導の対象となり得る。
社会的には、花井組がSDGs認定企業や「札幌市ワーク・ライフ・バランスplus企業」として認証を受けてきたことが、さらなる批判を招いている。SNS上では、「SDGsより先に人権を守れ」「健康経営とは名ばかり」といった声が上がり、企業の社会的責任(CSR)が問われている。
また、七戸社長が北海道警察の「交通安全活動推進委員」を務めていたことも発覚し、公共機関との関係性にも疑念が投げかけられている。
花井組は顧問弁護士を通じて被害者との示談交渉を進めていると表明しているが、具体的な進展は報じられていない。同社の公式ウェブサイトは5月8日夜以降、閲覧できない状態が続き、情報公開の透明性にも欠けるとの批判がある。札幌市は認証取り消しを進める方針を示しており、公共工事の受注にも影響が出る可能性が高い。
一方、被害者の精神的・肉体的なダメージは深刻とみられ、トラウマや退職後の生活への影響が懸念されている。SNSでは、「果たしてこの従業員さんが今後普通に生きていけるのか(トラウマが残らないか)心配です」と、被害者への支援を求める声も上がっている。
(文/石田良治)