イオンシネマが16日、公式X(旧Twitter)で【弊社従業員による不適切な対応に関するお詫び】のタイトルで謝罪文を公表した問題。
15日に“車椅子インフルエンサー”の中嶋涼子さんが、自身のXで「今まで何度もその劇場に一人で見に行って映画館の人が手伝ってくれてたのに、今日は見終わった後急に支配人みたいな人が来て急に『この劇場はご覧の通り段差があって危なくて、お手伝いできるスタッフもそこまで時間があるわけではないので、今後はこの劇場以外で見てもらえるとお互いいい気分でいられると思うのですがいいでしょうか。』って言われてすごい悲しかった。。」など、調布にある“イオンシネマ シアタス調布”で受けた悲しい経験を告白したことを受けての動きだった。
当初は、中嶋さんを支持し、イオンシネマの対応を問題視する声が多かったが、次第に「社会的弱者だからって何でも主張が通ると思うな」「だったらシアタス調布の別のシアターで見ろ」「ほかの映画館へ行け」「傲慢」「ワガママ」「手助けしてもらえるのは善意。当たり前じゃない」といった意見が多数上がり、これらがバズる状況となっている。
まず大前提として聞きたい。
そもそも、自分自身が、自分の家族が、自分の友達が、自分の職場の同僚が、車椅子生活を送っていたら、「車椅子なんだから、見たい映画を見たい時に見ようなんて贅沢、ワガママ」という言説を振りかざすだろうか。
そして、今回のケースの場合
「シアタス調布のシアターは全部で11。このうち9シアターで車椅子対応している」との意見もみられるが、まずもって「11分の2が車椅子非対応のままであることが問題」と言える。
また
・東京都調布市には「イオンシネマ シアタス調布」以外の映画館は存在しない
・『52ヘルツのクジラたち』は高評価かつ3月1日に公開されたばかりながら、現状、シアタス調布では1日1回だけの上映
・1日1回だけの上映はいずれの日程も、車椅子非対応のグランシアターで上映
この条件下で、「わざわざ車椅子非対応のシアターを選ぶな」と言うのは、ますます暴論と言えるだろう。
別の視点からの指摘となるが、「シアタス調布は、イオンシネマのフラッグシップシアターになる」と同館を運営するイオンエンターテイメントの取締役が7年前に「東洋経済オンライン」の取材で力強く語っている。
調布だけでも、東京だけでもなく、イオンシネマ全体の旗艦劇場になることを掲げている劇場が、全11シアターのうち2シアターで車椅子対応に至っていないのだ。
そんな状況で、公開からわずか2週間かつ映画専門サイト「映画.com」でレビュー平均3.8点を記録している話題の『52ヘルツのクジラたち』を、1日1回、車椅子非対応のシアター限定で上映している。
この時点で、車椅子生活の方々の足を遠のけているし、これを乗り越え来場してくれた車椅子生活者に対して「グランシアター(車椅子非対応)を選択するのは避けてください」と言い放ったのである。
「ほかへ行け」「ワガママ」という指摘は、ただでさえ車椅子生活者の実情に対する理解が乏しいものだが、諸条件を考慮すると、とてつもない見当違いであることが分かるだろう。
(文/二宮誠司)