
2024年4月にリリースされ、テレビ東京系アニメ『忘却バッテリー』のオープニングテーマとして話題を呼んだMrs. GREEN APPLEの『ライラック』。
その爽やかなメロディと青春の複雑な感情を切り取った歌詞が多くのリスナーの心を掴み、第66回日本レコード大賞を受賞するなど高い評価を受けた。
しかし、リリースから数ヶ月後、SNSや掲示板を中心に、この曲のサビが2004年に公開されたフリーゲーム『ゆめにっき』の「笛の部屋」で流れるBGMに似ているという声が上がり、議論を呼んでいる。
~類似性の指摘とその背景~
『ゆめにっき』は、ききやま氏が開発した伝説的なフリーゲームで、独特の雰囲気とレトロなピコピコサウンドが特徴だ。特に「笛の部屋」のBGMは、不思議な浮遊感とシンプルなメロディラインでファンの間で愛されている。一方、『ライラック』はMrs. GREEN APPLEらしいエネルギッシュでポップなアレンジが施された楽曲だが、SNS上では「『笛の部屋』のBGMを2倍速にすると『ライラック』のサビにそっくり」といった意見が広まった。
実際に比較動画がXに投稿されると、確かにサビ冒頭のメロディが似ていると感じる瞬間がある。特に音の並びや雰囲気が重なる部分が耳を引く。ただし、両者のコード進行を分析すると、『ライラック』はメジャースケールのダイアトニックコードを基盤にしつつ独自の転調を加えているのに対し、「笛の部屋」はより単純なループ構造を持つ。音楽構造的には明確な違いがあり、全体の雰囲気やリズム、アレンジも大きく異なる。
~「パクリ」か「偶然の一致」か?~
この類似性について、ネット上ではさまざまな意見が飛び交っている。「パクリではないか」と疑う声がある一方で、「サビの一部分が似ているだけで、曲全体としては別物」「オマージュやインスピレーションの可能性もある」と擁護する声も少なくない。あるユーザーは「もし大森元貴さんが『ゆめにっき』をプレイしていたなら、それはそれで面白い」と、ポジティブな憶測を投稿している。
音楽における類似性の議論は、過去にも数多く存在してきた。メロディの類似が指摘される場合、著作権侵害かどうかは「訴えた側が立証するもの」とされ、今回は『ゆめにっき』の作者ききやま氏からの公式なコメントはない。音楽理論的に見ても、短いフレーズの一致は偶然起こり得るため、「パクリ」と断定するのは早計だろう。
『ライラック』と「笛の部屋」のBGMの類似性は、確かに一部のリスナーにとって興味深い発見だが、音楽全体としての構造や意図を考慮すると、単なる偶然の一致か、せいぜい無意識の影響の範囲に留まる可能性が高い。
Mrs. GREEN APPLEの『ライラック』は、独自の魅力で多くのファンを魅了し続けており、この議論が彼らの創造性を否定するものにはならないだろう。音楽は聴く人の心にどう響くかが最も重要であり、こうした話題もまた、作品への注目を高める一つのきっかけと言えるかもしれない。
(文/川村隆二)